キッチンにて
……君たちは目の前にある大量の樹海鶏の卵と樹海コムギを見て、ふとある考えが浮かぶ。 この大量にある食材を使って、誰が一番美味しい目玉焼きパンを作れるか試すのはどうだろう? 君たちは己の料理の腕前を試してもいいし、そんな時間はないと立ち去ってもいい。
①ヴルメール
選ばれたヴルメールはキッチンに立つ。 気乗りしないのか彫刻のように美しい顔は不快感を帯びており、つまらなそうにキッチンをじろりと一瞥した。 「この俺に料理させるとは……随分と偉くなったものだな」 まぁ、そこまで自分の料理が食べたいなら仕方がないと憐れみながらヴルメールはすぐに調理に取りかかった。 そして無造作に卵をいくつか手に取ると、なんと片手で二つ同時にフライパンへ割り入れる。 ジウジウとたっぷりの油と弱火で焼く目玉焼きの傍で、次は樹海コムギの穂を小型の手回しシュレッダーのような機械に突っ込んだ! → それは何だ⁉ ヴルメール⁉ 「携帯脱穀機。レムス殿のお古をちょっと口利きして譲ってもらったんだよ」 ……料理好きなレムスならこのような道具を持っていてもおかしくないがヴルメールは一体この装置をどこで知ったのだろう。 君たちが首を傾げている間にもヴルメールの手は止まらない。 挽きたての淡い色の小麦粉に塩や特製イーストを混ぜ込んで水を少しずつ加えながら生地をこねる。 ベタつかず、粉っぽすぎないパン生地はすぐに膨らみ始めた。 最初と比べて大きく膨らんだ生地は見ているだけでふかふかとした手触りが伝わってくる。 「後は待つだけだ」 もう一つフライパンを取り出したヴルメールは軽く油を引いてパン生地を焼き始めると同時に、何故か目玉焼きの火を止めて蓋をしてしまう。 目玉焼きのフチは透明感のある茶色になっているが、丸い卵黄は相変わらずぷるぷるの弾力と鮮やかな黄色のまま。 ……均等に火が通っているとは言い難い。 君たちの疑惑の目つきとは裏腹にヴルメールは何でもないことのように涼しい顔だった。 しばらく腕を組んでフライパンを注視していたヴルメールだったが、時計を一瞥すると動き出した。 左のフライパンのパンはイーストや塩のおかげでふっくらとフライパンからこぼれそうなくらいに膨らんでおり、店で出てくるパンと遜色ない見た目をしている。 油を塗ったフライパンからパンはいともたやすく剥がされ、ヴルメールのナイフさばきであっという間に目玉焼きを乗せる準備が整う。 目玉焼きは、と君たちがもう一つのフライパンを覗き込むとヴルメールは見せつけるように蓋を取った。 白い水蒸気が君たちの目の前でモクモクと立ち上がり、フライパンの中には黒胡椒を振りかけられほんのり白みがかった美味しそうな目玉焼きがあった。 先ほどまで濃厚なオレンジ色をした黄身は赤ん坊の頬のようにほんのり色づいており、ぷるんと波打つ度に君たちの口の中に涎が溜まる。 どこで切り分ければ均等になるのか分かるのか、ヴルメールは迷いのない手つきで目玉焼きを切り分けパンの上に乗せ、君たちの前へ料理の皿を並べた。 「ほら、この俺が手ずから作ってやった目玉焼きパンだ。存分に味わえよ?」 ヴルメールが作った目玉焼きパンは最高の出来だった。 しっかりと焼けた白身と柔らかく波打つ黄身。 目玉焼きは火が通っていると同時に新鮮さを保っており、パラパラと散った黒胡椒が君たちの目と鼻を釘付けにする。 下のパンもこんがり焼けた外側は噛み応えがあり、内側は指で軽く押しただけで沈み込むほど柔らかい。 その二つを一緒に頬張り、嚥下する。 濃厚な卵と脂の絶妙な組み合わせとアクセントのピリッとした胡椒。 パンからは穀物特有の甘く芳ばしい香りが漂う。 動物由来の旨味をパンの分厚く柔らかい甘みが包み込み、口の中で広がる素朴な美味しさに君たちは自然と笑顔を浮かべながら幸せなひとときを過ごした。
目玉焼きパンを食べ終わった君たちの次の行動は……
②ジル
選ばれたジルはキッチンに立つ。 「普段通りしか作れんが……」 そう言いながらジルは自身の長くウェーブがかった金髪を後ろでひとまとめにすると、すぐに調理に取り掛かった。 まず樹海コムギの薄茶の外皮を取り除き、普段から樹海に持ち運んでいる携帯臼で薄い皮ごと粉末にする。 後はパンの素と油と塩を混ぜて捏ねれば全粒粉特有の美味しそうな色合いの柔らかな生地になる。 こだわり派の冒険者は更に本格的なイーストや様々な物を入れるらしいが、ジルは宣言通り〝いつも通りのパン〟を焼くつもりのようだ。 温めたフライパンの上にそのまま人数分の卵とパン生地を投入し、蓋をする。 ジュウジュウとくぐもった音を立て油と熱のいい匂いを漂わせながら焼ける目玉焼き、その隣では発酵のないパンがわずかに膨らみ香ばしく焼き上がる。 「……」 ……静寂の中、油の跳ねる音だけが君たちの耳に響く。 ジルは仏頂面のまま腕を組んで目玉焼きパンが焼けるのを待っているようだ。 → 目玉焼きパン、苦手なのか? 意外と時間がかかるな 「……ん?」 君たちの問いかけにジルは不思議そうな青い瞳でこちらを見上げる。 「いや。ただ、前線や樹海と違って焼いている間に周囲を警戒しなくてもいいから手持ち無沙汰になってしまってな」 それより私はそんなに険しい顔をしていたのか、とジルは珍しく氷の彫像のような口角を少し緩めて微笑を浮かべる。 君たちが料理の完成を心待ちにしていると、やがてキッチンから芳ばしい香りと共にジルが戻ってきた。 「完成だ」 ……ジルが作った目玉焼きパンは上出来だった。 少し硬めに焼けた両面焼きの目玉焼きは綺麗なものから黄身が崩れたものまで様々。 その下の樹海コムギのパンも少し硬いが食欲をそそる焼き目がつけられ、目玉焼きが落ちないように薄く輪切りにされている。 出来立ての目玉焼きパンを一口頬張るとパンの素朴な甘みとまろやかな卵黄の味が口いっぱいに広がる。 普段は石かナイフの刃のように固くなりがちなパンも、焼きたての今ならサクサクと小気味よい音を立てながらすぐに噛み切れる。 「うん。レムス殿が仰った通り探索中や忙しい朝にも良さそうだ」 ジルも目玉焼きパンを食べながら満足げにその出来栄えに頷く。 君たちは温かい食事で腹を満たし、仲間の手作り料理に舌鼓を打った。君たちは温かい食事で腹を満たし、少しの間小休止を挟むことにした。
目玉焼きパンを食べ終わった君たちの次の行動は……
③ラルム
選ばれたラルムはキッチンに立つ。 自分の料理の腕に自信があるのかまだ卵にも触っていないのに得意げにふんぞり返った笑みを浮かべていた。 「ヴルメール様! オレが必ず貴方様の口に合う目玉焼きパンを作ってみせます‼」 キッチンの向こうからヴルメールが見ているだけあってか、ラルムは興奮気味に腕まくりしていた。 → 期待しているぞ 楽しみだな 君たちが声援を送ると満面の笑みを浮かべていたラルムが急にピタリと動きを止める。 「あぁん? テメェらオレが失敗すると思ってんのか?」 返ってきたのは威嚇する獣のような唸り声とオリーブ色の殺気の籠った視線。 相変わらずヴルメール以外に心を開かないラルムの反応に君たちは肩をすくめて苦笑いする。 「さーて、ヴルメール様のために最高の一皿を用意するぜ! 見てろよ……!」 君たちが呆れて黙っているのに満足したのかラルムはすぐに卵をわしっとつかみ取り調理に取りかかった。 「……おら‼ できたぞてめぇら‼」 かなり香ばしい匂いが漂い始めた頃、遂にラルムが山積みの目玉焼きパンを持って現れた! ……皿に盛られた目玉焼きパンの出来は、正直言って〝雑〟だった。 いや、ちゃんと目玉焼きパンのカタチと香りをしている。 しっかりと焼き上がったパンと目玉焼きはこちらの食欲を間違いなくそそる。 ただし大半の目玉焼きは黄身部分が破れて歪になって、白パンもこんがりを通り越して多少黒く焦げた部分が目につく。 目玉焼きの焼き加減もかなり差があり白身がそれなりに残っているものから、かなりカリカリに焼けた物もある。 ……もちろん全て固焼き、塩コショウなどの調味料の形跡はない。 「とりあえず火が通ってりゃ腹下すこたぁねぇからな! この世の物は大抵火があれば食える!」 「それともなんか……文句でもあんのか? あ?」 ……ラルムのこぶしに血管が浮き出るのが見えた君たちは、とりあえず一切れずつ目玉焼きパンを手に取って思い切り齧りついた! しっかり焼けたパンとカリカリの目玉焼きが小気味よい音を立てて口いっぱいに焼き料理特有の旨味と油のまろやかさと温かさが広がる! ……美味しそうに目玉焼きパンを頬張る君たちの姿をラルムは鼻高々といった様子で眺めていた。 「あ、ヴルメール様はこっちです。自信作ですよ‼」 不意にラルムは目玉焼きパンに手を伸ばそうとしたヴルメールを制する。 少年の手には小綺麗な皿が一枚──そこには君たちが食べたものと比べて〝少し〟形の整った目玉焼きパンがあった。 自信作? → ほぼ同じに見える…… 「テメェ、目ン玉腐ってんのか? どっからどー見ても上物の目玉焼きパンだろーが‼」 ラルムは即座に歯をむき出しにして皿の上の目玉焼きパンを見せつけてきた。 言われてみれば丸い黄身が無事だし、土台のパンの焦げもこの中で一番少ない……気がする。 「あっそ! 文句があるなら食わなくていいんだぜ?」 君たちのいぶかしげな目にプライドが傷ついたのか、ラルムは目玉焼きパンを一気に三つ取って詰め込むように食べだす。 瞬く間に目玉焼きパンを胃袋に収める彼に君たちも負けじとラルムが作ったこんがり焼けた目玉焼きパンに食らいついた。
目玉焼きパンを食べ終わった君たちの次の行動は……
④レイブラ
選ばれたレイブラはキッチンに立つ。 「やれやれ……料理はあまり好かんのじゃがのう」 → 薬草師なのに? ブラニー族なのに? 君たちの問いかけにレイブラは眉間にしわを寄せながら大きなため息をつく。 「あのじゃな、調合と料理は全然違うぞ? 薬草なら可否も具合も分かりやすいが、料理となると〝うまそうか〟どうかで判断するじゃろう?」 「ワシの鼻や目はおヌシらと違う、そこが面倒なのじゃ」 全く面倒なリクエストをしてくれおって、とぶつくさ文句を言いながらも言われた事はやるらしく、レイブラは老眼鏡をかけると早速調理に取りかかった。 本人の言動や面倒くさそうな表情とは裏腹に料理は順調そのものだった。 ブラニー族らしい器用な手先は手早く下処理を済ませ、あっという間に樹海コムギは柔らかい色味のふかふかとしたパン生地に。 殻のカケラ一つない卵の黄身は全て丸い形を保ったままフライパンの上でジュウジュウと焼ける。 やがて、焼けたパンの上に白と卵色の美味しそうな目玉焼きを乗せた料理が君たちの前へ現れた。 丁寧に素早く練った生地からできたパンは外はカリカリ、中はフワフワの絶妙なバランス。 目玉焼きには焼いている間に粉末状のハーブが散らされ、爽やかなハーブとまったりとした卵の香りが混ざり合い、君たちの本能を猛烈に刺激する匂いを放っている……。 「ワシは料理は分からんが……おヌシらの反応からするにうまくいったようじゃな」 ヒヒヒ、と得意げに頬を上げて笑うレイブラに半信半疑で礼を言いながら、君たちは目玉焼きパンに食らいついた! ………………。 「ん? どうしたのじゃ?」 素朴な甘味のある柔らかいパン、絶妙な半熟具合が濃厚な目玉焼き、そしてアクセントのハーブ……。 そのマリアージュを打ち消すほどのエグみと苦みに君たちは口を押さえて悶絶した! 「ええぇぇぇ⁉ なんでおヌシら悶えておるのじゃ⁉ ちゃんと食える食材しか使っておらんはずじゃが」 → 何入れたんだ!? 口の中がビリビリする…! 「キッチンに用意してあったものしか使っておらんぞ! 卵、樹海コムギ、あとハーブ……」 レイブラは何かに気づいたらしく「あっ」と目を丸くして……イタズラっぽく舌を出してウインクした。 「……ハーブ、煙玉のヤツと間違えた」
目玉焼きパンを食べ終わった君たちの次の行動は……
⑤ネリーモア
選ばれたネリーモアはキッチンに立つ。 ……だがどういう訳か彼は材料を前にしたまま一向に動こうとしない。 君たちが声をかけてやるとネリーモアは困ったように口に手を当てた。 「いや、実はこうやって調理をするのは久しぶりで……」 料理、苦手なのか? → 久しぶりってどれくらい? 期間を聞かれたネリーモアはしばし昔のことを思い出すように首を傾げた。 「恐らく数……十年ぶりだと思う」 「ここ数十年は魔術の塔の無料配布の完全栄養バーとエナジードリンクで済ませていた。金もなかったし飲食店に行く機会もほぼ無かったな……」 黒曜石のような瞳でどこか遠くを見るネリーモア。 その肩を君たちが叩いてやると彼は恥ずかしそうに謝罪を口にしつつ、やっと卵を手に取った。 ……結論から言うと、ネリーモアの作った目玉焼きパンは大失敗だった。 焦げ臭い黒茶色と白い破片混じりの目玉焼き……。 多少なりとも膨らむはずのパンは完全に黒い板状の炭……。 自分が作り出した到底食べ物とは言えぬ物体を前にネリーモアの黒い肌も若干青ざめて冷や汗が光っているようにみえる。 「すまない……やれるだけのことはやったが、やはりダメだったか」 「はは……火加減以前に、まさか卵すらまともに割れないなんて自分でも思っていなかった」 ……ネリーモアが作った目玉焼きパンを手に取ってみると黒くなったパンの皮がボロボロとこぼれ落ちる。 内部は外側よりパン寄りの色に見えなくもない。 目玉焼きからは殻と中身が混じって焼けた変な匂いが漂っており、破れず円形を保っている黄身は一つもない。 「……こういうのは作った人が責任を負うべき、だろう?」 しばらく項垂れていたネリーモアは憔悴した無理な笑みを浮かべてパンを手に取り、できるだけ端の方を齧った! 「ん……、……、──‼」 君たちが心配しながら見ていると、不意にネリーモアは感電したかのようにびくんと痙攣する! そのまま真っ青な顔で頬を膨らませ、彼は君たちと失敗した料理を置いたままトイレの方へと走っていってしまった。 ……君たちはネリーモアの失敗料理を破棄し、黒い顔をさらに酷い表情にして戻ってくるであろうネリーモアの事を内心哀れんだ。
目玉焼きパンを食べ終わった君たちの次の行動は……
あとがき
・ギルド『ミダスの手』料理上手Tier
A ヴルメール
・幼い頃から父親を介護していたので料理上手。おいしい!本人は昔を思い出すので料理するのはそんなに好きじゃない
B ジル
・軍属なのでもちろん料理できるけど保存食や栄養優先なので味や見た目は微妙なことが多い。ヴルメールの補佐役。
C ラルム
・平均よりちょっと微妙。
切り刻んでクタクタになるまで火を通せば食べられる!が座右の銘なので食えはする。
美味しいものが好き。
D レイブラ
・僅差でネリーモアを上回る。
手先は器用だが、本人の毒耐性の高さや味覚や嗅覚がオーク基準なので調味料を間違えて有毒飯を作り出すので危険。
E ネリーモア
・まずい。レシピがあるのにまずい。
不器用かつここ数十年栄養バーとエナドリしか飲んでいなかったので料理をちょっと忘れている。
本人の味覚自体は正常なのでちゃんと自らの料理下手を把握している。