八方エンドウの銃士たち

アルゴノーツ:オルヴェたちが八方エンドウで遊ぶSS

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(……なんだよヴィーザルの奴、オレ相手なら一丁でも勝てるってか) むせ返るほどの青臭い硝煙が漂う部屋の中、ソファーの背もたれに身を隠したオルヴェは足元ギリギリで潰れた豆ペーストを睨みつけ、残る手のひら大のエンドウを二丁拳銃のように構えて息をついた。 (正面切って相手したくないのはヴィーザルも同じ……勝負は一度きりだ) ……ヴィーザルが隠れているのは恐らく反対側にある丸テーブル裏だというのは確実、そして彼もこちらがソファに隠れている事には既に気づいているはずだ。 二者の間に漂う空気は負傷の身でケルヌンノスに対峙した時のような、ワイバーンに奇襲をかけた時のような生か死か!(DEAD or LIFE) あるいはそれ以上の殺気と緊迫感、そして闘争の高揚に部屋の中は文字通りの戦場と化していた。 ……ここにいつもの頼れる相棒ベータが居てくれればと思っても、オルヴェの耳穴を反復するのは豆まみれの汚い手で触ったら二度と力を貸さないという脅し文句。アレは本気の声だった。 掌に滲む汗を握り潰しオルヴェがソファーの背もたれを一飛びで越えると同時にテーブル裏に隠れていたヴィーザルも肉食獣のようなスピードで戦場に躍り出る! 「ッ!!」 台風のように翻る赤と黒の薄布に包まれた細躯めがけ引き金を引くエンドウ豆の鞘を握ると刹那の内に外套は緑に染め上げられ、糸の切れた人形のように音もなく地面へと墜落する!! フェイク、僅かに聞こえた外耳道を震わす足音にオルヴェが左を向くよりも早く、漆黒のライダースーツ姿のヴィーザルは唖然とした表情でギリギリ首と頭だけ間に合った少年の横っ腹にエンドウ豆を押し当て躊躇無く引き金を引いた。 ── 「あー!また負けたぁ!!もう一回!もう一回やるぞ!」 「まだやるのか?十回やって七回負けてるのにどこにそんな自信があんだよ」 「次は勝てるかもしれないだろ!?」 「……何やってるのよ、貴方たち」 買い出しから帰ってきたアリシアが目の当たりにしたのはカゴいっぱいに盛られた八方エンドウと、豆ペーストまみれになって睨み合うオルヴェとヴィーザルの姿だった。 「何ってガンマンごっこだろ」 「見りゃ分かるわ。あたしが聞きたいのはなんで『コレ』でやってんのかって話」 「ぐふっ」 野草特有のツンとした青臭い匂いを漂わせながらふんぞり返る豆まみれの野郎どもの鼻を指先で押し潰しアリシアはこめかみに青筋を立てた。 出かけるまでキチンと起立していたテーブルや椅子はまるで深夜のクワシルの酒場のように天地がひっくり返されており、湖の貴婦人亭イチオシ(と聞かされた)のマホガニー製の床や天井にまで緑色のペーストや飛沫が付着している。 ……後で掃除すればなんとかなるとでも思っているのだろうかこの豆まみれのアホどもは。 アリシアがもう少し不健康だったなら脳の血管が切れてそのままぶっ倒れていただろう。 「ていうか!この八方エンドウってクエストで納品するやつでしょ!?何やってんのよ貴方たちはぁ!?」 「大丈夫だって!依頼の分はもう納品済みだから!」 「ほら証拠!証拠ぉ!!」 般若の形相で詰め寄るアリシアは目の前に突きつけられたちょっと緑がかった羊皮紙を睨みつけると、心底呆れたといった様子でこめかみを押さえて息を吐く。 オルヴェはまだしもヴィーザルまで頭が子供だったとは、頭痛の種がまた一つ増えた。 「一応、最初は余った分をサラダにしてみようかと思ったんですけど……」 「アレはとても食べられたものじゃなかったよ……」 エンドウ豆より青い顔のエドとイリスがそっと耳打ちしながら差し出してきた木のボールの中からは鼻をぶん殴られたような生苦い匂いが漂っておりアリシアは今にも吐き出しそうな形相で顔を覆う。 ……虫食い野菜や雑草ですら孤児たちに大人気の特製サラダにしてしまうエドすら調理できないとなれば、オルヴェたちのおもちゃになるのも致し方ないのかもしれない。 「アリシアも花の種を飛ばす遊びくらいならやったことあるだろ?それと一緒一緒!」 「ま、アリシアにはこういう自然の遊びの楽しさってもんが分かんねぇんだよ」 「ってあーー!!またヴィーザルお前豆いっぱい入ってる鞘ばっかじゃねえか!ズルいぞ!」 「俺の目利き舐めんじゃねえよ、ドゥーユーアンダースターン?」 何も言わずに顔を俯かせている少女を『豆遊びが楽しくないのか』と思ったのかオルヴェとヴィーザルは口々にあること無いこと言いながら籠からまた山守の八方エンドウを補充していた。 「しかしこのエンドウ豆よく飛ぶよな〜文字通り豆鉄砲って感じ」 「マジでどういう種してるんだ……」 そんな事を呟いていると、不意にぬうっと伸びてきた少女の白い手が二人の間から籠に盛られた八方エンドウを掴み取る。 「──正確には種じゃなくて鞘の方に秘密があるの」 八方エンドウを両手で揉みながらアリシアは肩をすくめ、ポカンとアホ丸出しの顔で見上げてくる男子二名を鋭く睨みつけた。 「そもそも八方エンドウが術式起動符の材料に使われるのは知ってるでしょ?」 「ああ、ネイピア商店で売ってたな」 「あれは八方エンドウの鞘が温度変化に反応しやすい特性を利用しているのよ」 手のひら程度の温度でも中身を発射する特性を利用しているの、とつらつら解説を述べながらアリシアは窓に向かって八方エンドウの鞘を構えると得意げに赤い目を細めた。 ──よく見てろ、とでも言いたげに。 「だからこうやってエーテルを込めてやれば……」 そう言いながらアリシアが二三何かを呟くとチリチリと光の粉が手のひらに集まりだし、うっすらと少女の手が光りだした次の瞬間、部屋中がカッと真っ白になり直後に空気を叩き割るような轟音とガラスが割れる甲高い音が光の中に響き渡った! 眼前から温かい突風が吹き付けイリスは咄嗟に身構えつつ瞼を開き、何が起こったのかを理解した。 「──どう、これが八方エンドウの真の使い方よ?下手な拳銃よりも威力あるわ」 アリシアの手の中に握られていた八方エンドウの鞘は無惨に四方八方に引き裂かれ、部屋の奥にあったはずの窓からはガラスのない青空が高く高く広がっていた。 中に入っていたはずの豆と窓ガラスは最早どこにも見当たらなかった。 「す……すげぇ!!アリシアどうやってあんなに飛ばしたんだよ!?」 「星術使ったんじゃあねぇだろうな?」 「エーテルを操作して鞘内部の温度を思いっきり高くしてやっただけよ、星術を使うまでもないわ」 「本物の鉄砲みたい!」 「当然!さっきの貴方たちの豆鉄砲はさしずめ豆飛ばし機ってところね!おーっほっほっほっほ!!」 「……ところでアリシアちゃん、窓ガラス木っ端微塵ですけど」 「あ…………」 外から吹き込む冷たい風に盛り上がっていた場の空気は一瞬で冷め、 窓ガラスの破壊音に気がついてやって来たヴィヴィアンとマーリンさんの悲鳴と鳴き声が割れた窓からマギニアの街へと響き渡った。

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更新履歴

・2025/03/08:第1版