1.書庫の影

ミズガルズ実働隊:プロローグ

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 北方の小国カレドニア。  そこには知の殿堂とも称されるミズガルズ図書館が存在する。  世界を股にかける巨大施設にして組織である図書館は〝叡智による人類の進歩〟を掲げ世界各地からあらゆる知識や文献の収集・保護を行い、それらを求め多くの学徒が集っていた。  王族や貴族の学び舎でもあり錚々《そうそう》たる学者や騎士が卒業生名簿に名を連ね、更には孤児の保護活動や独自のコネクションを持ち、世界のどこを見ても勝るものはない文化的な施設であった。  ……だが、その学び舎にも一筋の影があると知る者は少ない。 「……『原初の女神』が、本当に実在しているのか……」  絢爛な学徒の学び舎から地下深く、関係者ですら立ち入りを制限されたエリアの一室で驚愕の声が響く。  部屋では一段高い場所に一人と、それを十数人がぐるりと円卓を囲むように座っており顔も姿も闇に隠れている。  空中に浮かび燐光を放つ資料だけが周囲を照らし、一人立つ研究者は淡々と彼らに事情を説明していた。 「資料でもご覧になった通り、エトリアの協力者によるデータ、ハイ・ラガード公国地下遺跡に記された文章、そして先日アーモロードで発見された黒曜石版の警告文の解読により『原初の女神』の封印場所が判明しました」  研究者の言葉と同時に資料が切り替わり、とある孤島と神話の怪物の如き大蛇の挿絵が空中に浮かぶ。 「回収についての目処は」 「現在エトリアとハイ・ラガードを踏破した調査隊はアーモロードです。その他の調査隊では実力不足かと」  それでは困る、と思わず声を荒げた者に同意するかのように辺りは静まり返る。  ……古代技術の悪用を防ぐ秘せられた使命を帯びるミズガルズ図書館として、あまりにも危険な『原初の女神』回収はたとえどんな犠牲や悪徳を支払おうとも最優先事項にするしかなかった。  〝世界の裏側〟を知ってしまった彼らにとってもはや目と耳を塞いでベッドでガタガタ震えている事は緩慢な自殺に等しい。  そうやって怯えている間にも世界各地では世界樹を始め、旧時代の置き土産が地面の下で目覚めの時を今か今かと待ちわびているからだ。  人類が〝再生〟して早千年。  今なお強欲と戦争を遺伝子に刻む人類が何かの拍子に〝強い武器〟を見つけたらどうなるか。  記憶に新しいのは西の僻地タルシスでの事例だ、あちらは現地の冒険者がうまく解決したがあれもまた偶然に過ぎない。  ──干渉・管理出来ないのなら破壊あるのみ、それが現時点でのミズガルズ図書館苦渋の結論である。  幸いにも一度目覚めれば世界を産み直してしまう原初の女神の存在を知るものは少ない、だが彼女の眠る島は数日前全世界の……それも|秘密を暴く者《ぼうけんしゃ》たちへ知れ渡ってしまった。  円卓の中央にある一枚の薄い紙切れ、そこには考えうる限り最悪の文章が書いてあった。  〝絶海の孤島レムリアへの冒険! 勇猛なる冒険者求む! ――『マギニア王国』〟 「……『実働隊』の派遣を許可する。全ての資料の回収及び原初の女神の調査及び破壊を命ずる、手段は問わない。……邪魔するものは排除せよ」  円卓の代表者はその紙を忌々し気に握りつぶし、屑籠へと放り込んだ。

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更新履歴

・2026/05/09:第3版 ・2024/12/03:(旧)第2版、CSSの更新 ・2024/07/27:(旧)第1版