レムリアの宝剣

アルゴノーツ:第一迷宮『東土ノ霊堂』編

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…最後のマッスルフライを倒したアルゴノーツの冒険は、リーダーの青年オルヴェの剣が刃の半ばから真っ二つに折れた事実を受け入れる事から始まった。 「信じられない!なんで剣が折れるのよ!?精錬された鉄よ!?」 「オレだって分かんねぇよ!だっていつもと同じように振っただけなのに、床にぶつかって、そしたら」 「折れたんだな、お前の力加減どうなってるんだよ」 「うっ……」 オルヴェは仲間たちの容赦のない指摘に反論しようとしたが、核心を突かれわなわなと震えるしかなかった。 半分から折れた剣の軽さを持ち主であるオルヴェが一番理解しているし、刃こぼれした刃は無謀な戦いに挑んだ己を咎めるように光っている。 故郷を無計画に飛び出し冒険を始めたばかりの彼らに予備の剣などあるはずもない。 同行者であるビルギッタに助けを求めようにもメディックの武器は杖、極め付きに戦闘は自己申告するまでも無く不得意である。 そんな彼女がアルゴノーツに同行しているのは、ひとえに遺跡の中に消えた自身の”妹”を探すためだった。 「す、すみません……助けてもらった上にライカを探してもらっているのに……私も戦えれば良かったのに……」 「気にしないで、あなたは一切悪くないわ。あのアホの自業自得なんだから気にしないで」 「そもそも私たちがビルギッタちゃんの妹さんを探そうって決めたんだから」 「ふん!」 群れる女子たちにオルヴェはそっぽを向き、自分への小言を発するアリシアから離れるとけがの手当てをして回っているエドの方へと擦り寄った。 エドの主武装は両手のスマイトシールドなのだが、それとは別にパラディンしかりフォートレスしかり盾職というのは戦鎚や剣サブウェポンを携帯していてる事が多い。 エドは近寄って来たオルヴェを治療しようとするが彼の目的が自身の盾の内側だと気づくや、苦笑いを浮かべて首を横に振った。 「貸してあげたいのは山々なんですが……アリシアさんに怒られちゃいますからね」 「……ヴィーザル、」 「折ったらお前の腕の骨を折る、イリスのもダメだからな」 「うぐぐ」 頼みの綱であるヴィーザルにに見捨てられ、最早オルヴェには呻きながら歯噛みすることしかできなかった。 和気藹々と出発し始めた仲間たちを最後尾に回されたオルヴェが恨めしそうに見つめていると、そっと近づいてきたビルギッタに肩を叩かれる。 ……彼女が差し出してきたのは途中まで線の描かれた羊皮紙と筆記用具だった。 「あの、もしオルヴェさんがよかったら一緒に地図を描きませんか?」 「地図?」 「武器は壊れちゃいましたけど地図描きなら武器が無くても出来ますし……地図があれば後々役に立つかもしれません」 余計なお世話だったらすみません、とビルギッタはおずおずと羊皮紙を差し出してくる。 今の素手のオルヴェに断る理由も無いし、探検しながら地図を描くなんて初めての経験だ。 礼を言ってオルヴェが素直に羊皮紙を手に取るとビルギッタは嬉しそうにはにかみ、地図の描き方を話しながらゆっくりとした歩調でアルゴノーツの後ろをついて行き始めた。 ……こうしてアルゴノーツの冒険は始まった。 植物に侵食され原型を失いつつある遺跡は思ったよりも広大で迷路のように入り組んでおり、 更に先ほどのような狡猾で強力な魔物が多く生息しているらしく、新米冒険者であるアルゴノーツには一戦一戦が綱渡り状態だった。 単純に狭い通路での戦いを強いられるのはパーティ内で一番の実力者であるハイランダーのイリスが全力を出せず、盾役のエドを無視して後列が狙われる事も非常に多かった。 それでも先に進めていたのは薬師であるビルギッタの支援や若さゆえの戦闘への慣れ、幸運もあっただろう。 そんな彼らに後ろから声を掛けつつ、オルヴェも剣が無いなりに素手でビルギッタと自分に近寄って来る魔物と戦っていた。 「……止まれ」 「ん?」 迷路のような道を抜け辿り着いたのは四方に扉がある広間、その奥の部屋に足を踏み入れた一行はヴィーザルに促され素早く足を止めた。部屋の奥で何かが光ったからだ。 獣か罠かと息を潜めていると何かに気が付いたようにイリスが光の方向……正面の壁を指差した。 手形みたいなのがあるよ、と見上げてくる少女の言葉に従い近づいてみると言葉通り壁の中央部に人の手形のようなへこみがあった。 その手形は他の柱や石畳の隙間と同じような青い線で構成されていたが、他と違い手形の周囲だけはコケすらなく指から指紋らしき渦巻まで表現されていた。 「何でしょうか、これ」 「なにかの目印かしら、ってオルヴェ!勝手に行動するのは」 「なぁ見てくれみんな!」 手形を観察するパーティからオルヴェがふらりと離れるとそのまま部屋の隅でしゃがみ込む。 ご機嫌にスキップしながら帰って来た青年の手にはひと振りの剣が握られていた。 両刃の片手剣には豪華な飾り彫りが施されており、剣の柄近くには青緑色の宝石らしきものが埋め込まれている。 だが全体的に剣は鉄ともつかない石のように鈍い色をしており、武器というよりも儀式用の祭具に近い印象を受けるが拾った本人はそういう事は気にしないのか鼻をふんふん鳴らしながら剣を大事そうに抱えていた。 「剣があったんだよ!ほらイリスみろ、オレにぴったりだぜ!」 「よかったねオルヴェくん!」 「だろ!オレの日頃の行いの賜物だ!」 「ただの剣にしか見えないが本当に持っていくのか?……また折ったりして」 「折る訳ないだろ!」 自分の事のようにその場で小さく跳ね回って喜ぶイリスや手形を調べる他の仲間たちに軽口をたたかれつつも、オルヴェは誇らしげに剣を見せて回っていた。 「なんていうか説明しようが無いけどさ、この剣はずっとこの場所で誰かを待っていたような気がするんだよ」 「剣が、ですか」 オルヴェはエドの問うような呟きに頷くと真剣な表情で剣を見据える。 確かに見てくれはさっき壊した剣よりも頼りなさそうだが、それでも普通の剣とは何かが違う気がして仕方がない。 磨き上げられた翠の宝玉、偶然とは思えないほど自分にしっくりくる大きさと重さ……そして手に取ったとき確かに手の中で小さく脈打ったのだ。 「……オルヴェ、あなた頭打った?」 「打ってねぇよ!あーもー!いいよ!お前らが何と言おうがこの剣はオレのだからな!後で触りたいって言ってもぜってー触らせないからな!」 「それで、こっちの変な模様だが……」 「ちょっと面白いものが見れたわ、ちょっと見てくれる?」 眉を歪めたアリシアのあんまりな発言に拗ねるオルヴェを無視し、ヴィーザルは壁の手形に自身の手を添える。 そのまま押さえつけていると手形が強く光りだした。 「わっ光ったよ!?」 「すげー……!」 「オルヴェは触らないで、壊されたらたまったものじゃないもの」 「……」 きゃあきゃあと手形を触っては光らせる仲間たちにオルヴェは唇を尖らせるとさっき拾った剣を撫でる。 オレの剣だってカッコいいじゃん、このデザインとか勇者の剣っぽくないか? そんなむくれるオルヴェの様子を静かに見守っていたヴィーザルはもういいだろうと手形に群がる仲間たちを追い払った。 「だが光るだけだな、何も起きねぇ。 何なら俺たち以外に誰かが手を触れたような痕跡はなかった」 「……こほん、ヴィーザルの言う通りこの模様は手をかざすと光を放ち、一定の時間が経つと消える。 手のマークとかざすという行為、確実に何か隠されているんでしょうけど今のあたし達にはそれを解明する手段は無い」 「まさかライカは……!!」 先程までイリスと一緒に手形を光らせて遊んでいたビルギッタの顔面が光よりも青くなる。 今にも泣き出しそうな少女にアリシアは肩をすくめると茂みの方を見遣った。 「その可能性は低い。光るだけで何も起きないってことは、何らかの条件下のもとで動くと考えられる。 あなたの妹さんもこの台座よりもむしろもっと奥に進んだ可能性を考えるべきだわ」 「ぇえっ……それじゃあ早く見つけないとライカちゃんが……!」 「……奥まで入ってないことを祈るばかりですね」 アリシアの言葉にイリスまで泣きそうな顔になってしまい、エドは涙目の二人組の背中を優しく擦る。 「結局収穫はオレの剣だけか……仕方ない、先に進もうぜ!」 「早く行けば間に合うかもしれないからな」 重い空気を切り裂くような熱い声でオルヴェは全員を励ますと背後の扉を指差す。 この場所にいないのなら別の場所でライカは自分たちを待っているのかもしれない、青い瞳はそう言いたげに強い力で全員を見つめる。 見つかるまでは分からない。 そんな希望を胸に秘め、アルゴノーツ一行は広間を後にした。

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更新履歴

・2024/12/03:第2版 ・2024/08/02:第1版